甘く見てはいけない胃潰瘍 解答編3 胃上部内視鏡 Twitter Facebook はてブ Pocket LINE コピー 2021.07.28 2021.05.21 30代 女性の症例 主訴呼吸困難 現病歴◎受診5ヶ月前から喀痰・咳嗽を自覚◎翌月に倦怠感・疼痛を伴う左頚部リンパ節腫大が出現→近医受診反応性リンパ節腫大として経過観察◎受診2ヶ月前から乾性咳嗽が持続→近医受診呼吸機能検査施行した結果、正常範囲SABA、吸入ステロイド、β2刺激配合吸入薬や抗生剤を処方し経過観察◎受診1ヶ月前労作時呼吸苦が増悪→近医受診CT施行した結果、GGO、鎖骨上リンパ節腫大を認め、悪性リンパ腫疑い→当院紹介 既往歴網膜剥離、先天性右白内障 生活歴喫煙:なし、飲酒:機会飲酒、アレルギー:なし 家族歴父:胃癌、祖母:弁膜症 入院中の検査 心エコー 肺高血圧の所見を認めた リンパ節腫大を認めたが、悪性リンパ腫としては非典型的 CTガイド下リンパ節生検 右心カテーテル検査 肺動脈吸引細胞診 細胞診の結果:低分化腺癌を認めた CT:胃内に明らかな所見なし 左鎖骨下リンパ節腫大 膵後面にも大きなリンパ節腫大あり 診断 肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTM) 目次 心エコーCTガイド下リンパ節生検右心カテーテル検査肺動脈吸引細胞診CT:胃内に明らかな所見なし左鎖骨下リンパ節腫大膵後面にも大きなリンパ節腫大あり上部内視鏡赤印の部位から生検が施行されました生検病理はgroup1粘膜構造の破壊と未分化型腺癌(印環細胞癌含む)あり粘膜下層にも腫瘍細胞を認めるが、筋層を超えての浸潤は認めなかった生検部位を再度確認してみましょう癌からは外れていました診断※繰り返しになりますが… 上部内視鏡 赤印の部位から生検が施行されました 生検病理はgroup1 その後の経過 原発不明なまま呼吸状態が悪化し 入院7日目には原発不明癌としてカルボプラチン、パクリタキセル、ベバシズマブ療法を再開。 しかし、呼吸状態は改善されず… 入院8日目にお亡くなりになりました。 病理解剖所見 粘膜構造の破壊と未分化型腺癌(印環細胞癌含む)あり 粘膜下層にも腫瘍細胞を認めるが、筋層を超えての浸潤は認めなかった 診断 よく見ると潰瘍瘢痕の周囲に僅かですが厚みを認める 潰瘍は瘢痕化しており、潰瘍の炎症による浮腫状の辺縁では説明つかない 同部位の構造は粗になっており、ここが粘膜面に露出したpor/sigであったと考えられる 生検部位を再度確認してみましょう 癌からは外れていました 診断 胃癌: M,Post,0-Ⅱc,2.5×2㎝,por1>sig,pT1b(SM2),Ly1c,V0,INFb,pN3b リンパ節転移: 左鎖骨上窩、腹腔動脈、膵周囲 本症例からの学び ※繰り返しになりますが… 胃潰瘍の内視鏡は常に悪性サイクルを念頭に診療する。 瘢痕の周囲に癌の領域がある場合があるので、インジゴカルミン散布、NBIを駆使して腫瘍領域を確認し、適切な生検をする。 粘膜変化だけではなく、周囲の“厚み”や“硬さ”にも注目する。 正面からのみならず、接線からも注意して観察! まとめ 今回は、小さな胃の未分化型腺癌が原因で肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTM)を発症し 急激な肺高血圧症を起こしお亡くなりになった若年女性の一例です。 本症例のような場合、小さな胃癌が命に係わる可能性も高く、気合を入れた観察が必要となります。 みなさん、この症例どのように感じましたか? わたしはかなりゾッとしました。 この症例を学びに『当たりまえ』を忘れることなく、気合を入れていきましょう。 これも当たりまえですが…私たちの内視鏡業務の重みを感じますね。 不定期ですが、次回もお付き合い頂けると幸いです。
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